「ちょっと出かけてくる」

いつものことだと、二つ返事で了解した
何処に行くんだと聞いたとしても答えないのは目に見えている

それでも遅くなっても夕方にはいつも帰ってきていたから
大丈夫だろうと思っていた


良識の範囲で行動するだろうと。

しかしそれに収まる人間だと思ったのが
そもそも間違いだった



wounded





「バルフレア、あなたに何か言った?」

いつもより少し怪訝な声でフランが尋ねている

心当たりの無いバルフレアは、言っていないと肩をすくめた

「―そう。ならいいわ」

「どうした?」

「聞いてみるわ直接本人に」

そう言うとフランはその場を立ち去った
それを聞いた後に気になったのは夕食にの姿がなかった事






「誰もいませんように・・・」

もうすっかり外は暗くなった頃にそっと戻ってきた
靴の音も聞こえぬように静かに

でもこれじゃまるで泥棒みたいだなぁと思いつつも
誰にも遭遇せずに部屋に入って胸を撫で下ろす

「さてと」

靴も服もいっぺんに脱いで髪の毛を邪魔にならないようにピンで留めた


「うーん・・どうしたものか」

シャワーを目の前に立ったものの濡れれば確実に身動きが取れなくなる
自分の体のあちこちを見てため息


「傷、残らなきゃいいな」

今日はとんだドジを踏んでしまった。
あちこちに生傷が出来て傷口をキレイにしようにも
どこから手をつけていいのやら


「あのモブ、今度あったら許さないわ」

皆に寄りかかってばかりもいられないと思い
何か少しでも軽減したくてお金を稼ごうと考えたのに、
突然の雨とリーチの差、そして自分の浅はかさが招いた結果だ

一人で痛い痛いと騒ぎながら何とか浴室から出て
体をそっと拭き傷が大きい所からガーゼを当てて包帯を巻いていく


「不憫な体だわホントに。魔法が効かないなんて」


独り言をいいながら慣れた手つきで巻いていく


「でも、これじゃあ目立ちすぎだし困ったなぁ」

こんな格好では何をやったかすぐバレるし
かといってポーションせがむのも気が引ける。


訝しげな顔をした後服を引っ張り出し着替える
どうせ行って帰ってくるだけなのだからと
財布を片手にドアを開ける



「どこに行くつもりかしら」

直ぐ目の前にはノックをしようと手を上げるフランの胸元

「・・・・・・・・どうも」

無かった事にしようとゆっくりドアを閉める

「何かしら、その怪我」

「いえ、その階段から転げ落ちまして」

「嘘おっしゃい」

「はい、、、すみませんフランさん嘘つきました」

「怪我だけで済んだからよかったけど、ダメよそうゆう事は」

「何でもお見通し?」

「たまたまよ」

私が砂海亭から地図を片手に出てきた所を見たらしい

「まさか本当に行くなんて」

「お説教なら後で聞きます、その今は買い物を」

「そんな痛々しいのに出せるわけ無いでしょう」

魔法を唱えようとするフランの手を掴み押さえる

「もったいないわ、使わないで」

「ダメよ」

「だめならポーションにして欲しいの」

「???」

「魔法よりそっちの方が好きなんだ私」

ハハハと笑ってみたものの
間違いなく胡散臭いと思われた

「私のをあげるから部屋からは出ちゃだめよ。いい?」

「逆らいません、それとありがとうフラン」

もう一度念を押しフランは廊下を歩いていった




「ふぅ・・・びっくりした」

後で理由は聞かれるかもしれないが、フランなら分かってくれるだろう。

欲しいものがあったからその手段を踏んだまでだ。

結果、手には入らなかったけれど…。



どうしたものかと呻っているとドアを叩く音がその思考を止める
きっとフランが戻ってきたのだろう。


「今、開けるわ」

そういって見上げた先、褐色の肌ではなく大きな耳も無い



「フランでは・・・・ないわね」

「ああ、そうだろうな」

「じゃ」

がっしりバルフレアに掴まれたドアは怪我をした腕ではどうにも出来ない

「見逃して、ね?」

ちょっと声色を変えて言ってみたが通用しないようだ

「説明してもらおうか」

「転んだのよ」

「どうやって転べばそんなに怪我すんだ」

「器用でしょ?」

「おい

「本当みたいよ」

バルフレアのため息が聞こえるよりも先に
フランの助け舟

「許してあげたらそこら辺で」

「フラン」

「彼女も不本意なのよ」

呆気に取られた顔で転んだ本人を見ればどこか遠くを眺めている

「バカだな」

「・・・・・・・・」

「バルフレアが何か頼んだのかと思ったのよ」

「それでか」

昼に言われてから気になって仕方がなかったが
よもやこんな事とは

「もう少し大人しくしたほうがいいわね

「ええ、そうする」

フランは私の前に袋を差し出し
今度は私を誘いなさい、そう言って去ってしまった

その優しさに心打たれ持っていた袋を抱きしめる

カチャリとガラスが触れ合う音
それが聞こえバルフレアは疑問に思う

「何だそれ」

「ポーション」

「ふぅん」

「好きなの、それにフランがくれのだから効くわ」

「変わらねーだろ」

この時代に手っ取り早く治療できる魔法よりも
ポーションを好むものだろうか

笑顔を絶やさず早速袋を開けて飲もうとしているに向き合う

「バルフレア、もしかして欲しいの?」

「そうじゃない」

「考えても無駄よ」

「まぁいいさ、それより忘れもんだ」

ポーションの瓶を器用に咥えたまま袋に入れられた紙を開くと
見たことのあるそれに咽返りそうになる

「っ・・・っちょっと」

「これからは嘘つくなよ」

靴をトントンと落ち着き無く鳴らすバルフレアを見ていると
まるで責められているようだ

「あの、、怒ってるの?」

「当たり前だろ、二度目は無いからな」

「もう失敗はしないわ」

の頬をそっとなぞり僅かに湿り気を帯びた髪を掬い上げ
それに唇を落とす

見上げてきた瞳が自分のそれと重なりバルフレアの口元は弦をつくる
でもその目は笑ってはいないのだ

「いいか、今度誘う時はフランでもなく俺を誘え」

去り際に耳元でそう囁かれ体がビクリと強張った

その時に一瞬置かれたバルフレアの手が
まだそこに在るかのように感じられて
遠のいていくその背中が見えなくなるまで見つめ続けた。


廊下に響く時計の音は今日から明日になった事を告げていた―